2016年8月15日に発行した小説本に収録するため書いた、いちさにR18
--------------------------------------
「ああ……なんと愛おしいのでしょう。本当に、貴女はお可愛らしい。私を、どこまでも魅了してやみませぬ。そんな愛らしいお顔でお泣きになって……もっと私に食べて欲しいと誘惑していらっしゃるのか。いや……そんな訳はありませぬな。申し訳ありません。だけれども……もう遅いのです。私は貴女を愛してしまった。誰の手にも触れさせたくないと願ってしまった。だから……私と共に堕ちて下され。獣のように交わって……ともに、見果てぬ夢を見ましょう。貴女の全てを使って私の心を潤わせて、私のものになって下され」

(※性的な表現が含まれますので18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい)



湯浴みを終えて自室に戻った私は、照明がつけられていない室内に濃い闇がわだかまるように人の影があることに気付いてビクリと体を硬直させた。
「だ、だれ……っ!?」
思わず声を上げればその人影は立ち上がりシーッと指を口元に当てた。
「驚かせてしまって申し訳ありませぬ。私は一期一振です、主殿」
私に近づいた彼の闇に隠れていた姿が露わになり、その見知った顔に私はホッと胸を撫で下ろした。
「あ、ああ、なんだ一期か……驚かさないでよ」
審神者になって半年が経つが、彼は早い時期に鍛刀で来てくれて、その頃からよく私の近侍を務めてくれていた。この本丸の中で、話す機会も会う機会も多いほうの刀剣と言えるだろう。
「実は今日はお願いがあって参りましたのです」
本当に驚いたものだから軽く文句を言ったつもりだったのに、一期一振はただ真剣な表情で、まだ電気もついていない暗い室内で私を見つめる。
この時点でなんとなく何かがおかしいと気付いていたのに、私は普段から積み重なった彼への信頼で、ただ普通に接することしか出来なかったのだ。
「あ、そうなんだ……とりあえず、電気つけていい?」
「いえ、このままでお願いします」
「…………一期、どうかしたの?」
もはや完全に何かおかしいが、一期一振の表情が真剣すぎて私も迂闊に言葉が出せない。
一期一振は私の肩をつかみ、彼のほうへ引き寄せる。
そうして気付いた時には私は彼の逞しい腕の中にすっぽりとおさまっていた。
「………突然のことで申し訳ないとは思っているのです。ですが……もう我慢ができず……ここで貴女を待ち伏せておりました」
一度言葉を切った一期は、私の耳元でその続きを囁いた。
「今宵……貴女と夜伽がしたいのです。よろしいでしょうか?」
「……………………え゛?」
私は素直に反応するしかなかった。
夜伽?よとぎ?ヨトギ?
それってあの夜伽?????
言葉は知っている。何をするのかも一応知っている。だけどそれは……。
「わかっております。貴女が困惑しているのは。この本丸内で、貴女と刀剣との夜伽は基本的には禁止されております。さらにそう言い出したのは、私でしたから……」
一期の言葉通りだった。
審神者になって月日が経てば順調に鍛刀も出陣も数を重ねて、本丸内の刀剣の人数はどんどん増えていく。そうした中で、刀剣男子のモチベーションとしても、より良いコミュニケーションの一つとしても『夜伽』の話は早い段階で話題に上がっていた。政府からも『刀剣から求められたら応じるように。問題が生じそうな場合は慎重に対応し、何かあれば報告をすること』と、比較的に緩い決まりとなっていたことも大きかった。
私の年齢は十七。充分に夜伽を務められると、刀剣男子は判断したのだろう。
だけれどその時にはもう近侍として頭角を表していた一期一振が、こう言ったのだ。
「確かに私達刀剣男士にとって、主殿との夜伽は特別な意味を持ちます。皆さんが望むのも無理は無い。けれど……私達の主はまだお若くていらっしゃる。せめて、時が経つのを待ちませぬか。今、無理強いさせてしまうよりは、いずれ主殿の方から望まれる時が来た方が、円滑に物事がおさまると思うのです」
その場にいたのは、比較的年かさの刀剣が七人と私。その筆頭であり、最も『夜伽』を望んでいた三日月宗近は一期一振の言葉に目を細めて、扇で顔を覆い、いくばくか考えるように沈黙してからにっこりと微笑んだ。
「そうだな……。一期一振の言うことは正しいと感じられる。俺もその意見を尊重しよう」
三日月宗近が承諾してくれたことでその場にいた全員はもう『夜伽』を話題に出すことは無くなった。
まだ現代で初体験も済ませてなかった私は、どことなくホッとしているのを知る。
もしかして一期一振が助けてくれたのだろうかと思いながら、今日まで聞いては来なかったのは、その話題に触れること自体がタブーになった風潮が本丸にあったからだった。
一期一振はいつも優しく微笑み、審神者の私を補佐してくれているのだから、その一環なだけだったのかもしれない。
それから四ヶ月が経ったのが今日。
「主殿は……私をどう思っておりますか?」
「ど、どうって……」
ひたすら困惑しながら、私はこういうシーンを映画やドラマで見たことがあるなぁと、非常に客観的な気持ちでいた。
だから……本当は一期一振が何を言いたいのかも気付いていたのに、どうしてか私は、つれない素振りをするしか出来なかったのだ。
「と、とりあえず離してよ、一期。まず電気つけて、それから落ち着いて、話しよう?ね?」
彼を宥めようとするも、一期一振は腕の力を緩めない。
そして私の顎を掴んで上向かせたと思ったら、私へとその唇を重ねた。
「……っ!?」
唇と歯列を割って、彼の舌が、私の口中へもぐりこむ。
乱暴ささえ伴って、彼は私の口中を貪り続けた。
抵抗しようにも、強い力で拘束されている私は、ただ解放されるのを待つしかなかった。
息苦しさと、初めて感じる感覚に戸惑いながら。

「……申し訳ありません………」
ようやっと唇が離れた時に、彼はただそう呟いた。
力が抜け切り、膝から崩れ落ちた私は、彼の手で畳へ押し倒される。
ぼーっと回らない頭で、服が脱がされていくのを知りながら私は暗い天井を見つめて、これも『レイプ』って言うのかな?とか、痛くないといいなぁ……とか考えて、もうすでに逃げることは諦めていた。
一期一振の真剣な瞳に見つめられた時から、わかっていたんだと思う。
本当は、鍛刀で顕現された一期一振に初めて出会った時から、わかっていたんだと思う。
もしも。
もしもいつか彼から何かを頼まれて懇願されたら…………断れないだろうなということを。
それは恋愛だったのかもしれない。主従が結ぶ強い絆だったのかもしれない。
家族愛のような、庇護欲だったのかもしれない。
そのどれだったのかわからないまま私は、体を這い回る彼の手が、温かいことを感じていた。
頭上から降ってくる荒い息が、今までに見たことがない、彼の本当の姿であることも知りながら。





「……あ、っぁ……や……っぁああ!」
長い愛撫は、いまだに終わりを告げていなかった。
もう二時間は経っただろうか。
そのあいだずっと一期は私の全身を舐め、触り、ついにはアソコに指を挿れて、動かし続けていた。
「もっ……むり……っ…………ゆるして……っぇ!」
一期の返答は無い。
泣きじゃくる私の声を聞いているのに、冷酷に彼は愛撫をやめようとはしない。
首筋から胸元へと舌が這い、胸の先を舌先で苛められてから、唇に包まれて吸われる。
「んっぅ……んぁっあ……あ、あっ……」
きゅぅぅとお腹の奥に痺れが集まり、知らぬ内に体は強張って震えて、さらには一期の指が私の膣に突っ込まれて、奥へ奥へと擦っている。
「ねぇっ……あっ、また……っなんか、キちゃうから……っあ、やめて……っもう、おねがい……っっ」
もうすでに二度、彼から与えられる刺激で私はいわゆるオーガズムと呼ばれるものに達している。
再び迫り来るソレに最早苦しみすら感じ、終わりの無い今の状況に恐怖も抱いていた。
そこでようやく一期の動きが止まったと思ったら、折りたたまれた足の膝が上半身へつくくらいに、足を開かされる。
さらに驚く間もなく指よりももっと太いものがソコへ押し付けられて、ぐいぐいと押し込まれて行った。
「……あっあ……やっ、あ……っぁあああ!」
引き裂かれるような痛みに私は涙をこぼす。
「主殿……今、挿れていますから……大丈夫ですぞ……すぐに痛みも止まりましょう」
一期は虚ろに呟いて、私のアソコへ容赦なく逸物を挿し込んでいく。
「ぃたい……いたいよ……っ……いちご……っ」
名を呼んでも意味は無いのかもしれないが、私の脳裏には今の冷酷な一期よりも、普段の穏やかで気品のある彼の姿ばかりが浮かんでいた。
「辛抱して下され……動きますぞ」
ぎゅうぎゅうに押し込まれたモノが、ゆっくりと引き抜かれていく。
再びゆっくりと押し込まれ、一期は何度もそれを繰り返した。
「あ……ああ……っぁ……あああっ」
私は喘ぐというよりも、悲鳴をあげていた。
想像していた以上の質量に、まさに今初体験を迎えている私のナカは、受け入れるだけの準備や慣れがまだ無かったのかもしれない。
長い愛撫を受けたのにこんなに痛いなんて……。
いろいろな感情が、私の思考を暗く、深い闇へと染めていく。
不意に一期の動きが止まり、私の唇をその唇で塞いだ。
舌と舌が絡まって、唾液を交えて、長いキスをされる。
その間に彼の手は私の胸を揉みしだき、乳首もこりこりと擦っては、執拗に刺激され続けた。
「んっっん……ぅっ…ふっぁ……っんんん!!」
一期が腰を動かしてない事もあり、突っ込まれたままでも、少しずつ痛みが引いていることに気が付いた。
口中や胸から感じる快楽に押し出されるように、痛みの代わりに違うものが湧いてくるのを感じる。
戸惑いながら、一期の舌の動きに応じるように私も舌を絡ませていた。
流し込まれた唾液も飲み込んで、何かの箍が外れたように、私は彼の背に腕を回す。
一期が私を抱きしめて、腰の動きを再開する。私は彼にしがみつきながら、激しく叩きつけられる律動を、慣れないどころか先ほどまで処女だった体で、受け入れるしかなかった。

「あ…っぁ……は、っ……ああ、あっ!」
もう二度も射精したのに、私の中で二回も出したのに、一期は未だにその逸物を私に突っ込んで腰を振っていた。
「あるじどの……申し訳ありません…っ……まだ、足りぬので……っ!」
謝る言葉は口先ばかりだとこの短い時間で痛いほど知ってしまった。
「もっ……っや……あ……やすま、せて…っぇ……ぁああ!」
私はうつ伏せにされ、尻を持ち上げて後ろから挿入され、がつがつと彼から腰を穿たれている。
もうどちらの体液か分からなくなった汁が、アソコから零れて太腿を伝い落ちて、畳に敷かれた布団へ染みを作っている。
獣のような激しさで、一期一振は私を犯し続けていた。
受け入れなきゃいけないのだと、四ヶ月前に刀剣男士との夜伽をしなくても済むように私を守ってくれた一期一振に感謝をしなきゃいけないのだと、そう思う気持ちもあって堪えていたけれど、私にももう余裕も体力も残っていなかった。
不意に一期が私の左太腿を持ち上げる。
高く持ち上げて支え、さらに角度を変えて、奥へと剛直を押し込んでくる。
「っぁ……か…はっ……あ、っぁああ!?」
ごりごりと、いきり立つ肉棒が、私の膣内(なか)を抉るように責め立てる。
濡れきっていても苦しいくらいに、容赦がなかった。
「だめ……っらめ……っぁや……やぁっぁああ!」
深いところから強引に快楽が流し込まれていく。
頭の中に火花が散って、私はびくびくと体を痙攣させた。
「私も……っ出しま、すぞっ……!」
声とともに熱いものが私へ注がれる。
その間まで幾度も腰を打ちつけられて、私はなんだかわからない声を出しながら、彼とともにイき続けた。
「……はぁ……っはあ……」
荒い声が聞こえる。私の声だろうか。いや、彼の声だ。
数分間の静寂のあとで、再び一期は、私の体を持ち上げた。
向かい合わせに、彼の膝の上へ座らされる。
私の腕は彼の首に絡まるように回され、お互い抱き締めあう格好となる。
「…………いちご……っ」
何か言わなきゃと思った。言いたいことは沢山あった。
休ませて欲しい。もうやめて欲しい。どうしてこんなことをするの。
どうして。なんで。ねぇ。お願い。もう……。
言葉が出なかった。一期の手が優しく私の背を撫でていく。
私よりも高い体温の手が、まるで労わるように背から腰を撫でている。
私は泣きたい気持ちだった。
泣いても効果は無くても、泣くしかなかった。
それなのに一期は私が泣いているのに気が付いても、ただ目元に口付けてから、こう言った。
「ああ……なんと愛おしいのでしょう。本当に、貴女はお可愛らしい。私を、どこまでも魅了してやみませぬ。そんな愛らしいお顔でお泣きになって……もっと私に食べて欲しいと誘惑していらっしゃるのか。いや……そんな訳はありませぬな。申し訳ありません。だけれども……もう遅いのです。私は貴女を愛してしまった。誰の手にも触れさせたくないと願ってしまった。だから……私と共に堕ちて下され。獣のように交わって……ともに、見果てぬ夢を見ましょう。貴女の全てを使って私の心を潤わせて、私のものになって下され。よろしいですな?」
「………………え?…………あ?」
一方的だった。ひたすらに一方的に一期一振はよくわからないことを言っていた。
恐ろしいと思った。怖いと思った。
今すぐに逃げたいと思った。
だけど逃げられない。強い意思の力を込めた琥珀色の瞳が、私(審神者)の瞳を見つめて縛りつけていた。
「大丈夫です。大丈夫ですぞ。……私は、貴女をお慕い申し上げておりますので」
そんな私に一期は優しく微笑んだ。狂気を孕んだ声色で。
一期一振は私の返事を待たず、私に口付ける。
下唇も上唇も舐めて、口の中に舌を潜りこませる。
ちゅっ、ちゅ、と音を立てて美味しそうに一期一振は私へ接吻を繰り返す。
「あと一度です。挿れますぞ」
さらに私の尻をつかんで持ち上げて、硬さを取り戻していた彼のモノに向かってゆっくりと下していく。
「んっぅん……んっふ……っんんっ!!」
圧迫感と共にぎゅうぎゅうと私の中へモノが満たされていく。
同時に、感じたことの無い痺れと、強烈な快感が私を襲った。
びりびりに流れ込んでくるものに、私は息すらも出来なくなり、必死にはくはくと口を開ける。
体中が溶けてしまうかのように、まるで体が蜜に変わってしまったかのように、自分の体を固形だと認識できないほど、一期一振と繋がった部分から自分が人間ではなくなっていくかのような感覚がする。
「らめっぇ……あっ……や……ったすけ、て……っ」
なんとかかんとか息を吸ってかろうじて意識を繋ぎとめた私は、持ち上がって宙をかいた手で、彼の肩を掴む。
力の限りに掴んで、たすけて、と繰り返した。
「ああ……刺激が強すぎたのですな。申し訳ありませぬ。私は人の形をしてはおりますが、人間ではありませんので、あまり興奮してしまうと、こうなってしまうのです。大丈夫です。すでに貴女も審神者としての霊力をお持ちですから、すぐに馴染みましょう。死んだりはいたしませぬよ、ご安心めされよ」
「え……あ……あ…………どう、して?」
疑問と困惑と恐怖で喘ぐ私に、一期は冷徹に言い捨てて、私の腰を掴んで揺さぶり始める。
「あっあ……やっぁ……らめ、らめっぇぇええっ!!」
繋がった部分が擦れ、がくがくと揺さぶられ、尻を持ち上げては抜ける寸前で再び落とされて深くモノを銜え込まされ、すでに何もかも限界だった私は呂律の回らない言葉を叫んだ。
一期は私に構わずに下から突き上げて、恍惚とした表情で、文字通りに私を味わっている。
「ああ、イイですぞ……やはりっ……素晴らしい……っ…」
さらに一期一振の唇と舌が、私の胸の頂きを苛め始める。
すっかり硬くなっているその部分を舌先で上下に弾き、ねっとりと舐めあげて、口に含んで舌で転がす。
「っは……あ……ああ……っぁ、ああ、ぁああっあああ!?」
その刺激で、すぐにイってしまった私を抱きしめたまま、おもむろに一期一振は立ち上がった。
そうして、立ったまま、私を抱え込んで、下から何度も何度も突き上げてくる。
「むり……もっ……らめ……ぇっぁ……こわれ、る……っっ!」
何を言おうが無視され、一期は立ったまま、私と交わり続ける。
不意に体を下ろされたと思ったら、今度は壁に向かって手をつかされて、後ろから挿入される。
ぱん、ぱん、と音を立てて、彼の律動と衝撃が、私を責め立てる。
お腹の奥はひたすらに熱く、歯を食いしばって、私は今にも崩れ落ちそうな膝を必死に立たせて、失いそうな意識の中で、彼のものを銜え込み続ける。
もういつイったかイってないかもわからず、注がれた熱いものを感じながら、ふと気が付けば、再び私は仰向けに布団の上にいて、見上げれば一期が私にのっかっていた。
当たり前のように足は開かされて、当たり前のように一期は私のおまんこにおちんぽを挿れて腰を動かしている。
「あ……っぁ……は……っぁあ………あ」
突かれるたびに掠れた声が反射的に出た。
体は揺れて、すでに馴染み切った私のアソコが彼のモノに擦られるたびに、与えられる快楽に、甘い痺れを受け入れていた。
「んっぁ……あ……あっ……っ」
そして、一際強く突かれたと思ったら、一期の体が震えて私の上へと崩れ落ちる。
「はぁ……はぁ……っはぁ………」
すでに彼の逸物も抜け落ち、久しぶりに訪れた静寂と休息に私が恐る恐る身を起こせば、一期一振の様子がおかしいと気が付く。
疲労しているのはお互い様だとしても顔色が、異様に良くないのだ。
「……ねぇ……いちご……?大丈夫……なの?」
声をかけるのも躊躇ったが、何時間にもわたって彼が私の躰を強引に弄んだのも事実だが、曲がりなりにも私は一期一振の主なのだ。放っておく訳にはいかないと半ば自動的に判断していた。
「ねぇ……どうしたの…………いちご?」
裸の肩に手をかけて軽く揺らしても反応がない。
どうしたらいいかと迷っていると、ようやくか細い声で返事があった。
「……だい、じょうぶです……お気になさら、ず………」
よろよろと起き上がり、頭に手を当てながら、顔を顰めている。
「………頭、痛いの?どうしたの?ねぇ、一期……」
どうしてかわからないが、一期一振の様子がおかしいことに、私は嫌な予感を覚えていた。
言葉に出来ない、焦燥のような、恐怖のような、嫌な予感。
疲労困憊であるのは私も同じだが、そういうのとは違うのではないかと、直感で理解できる。
同じくとっくに裸だった私が彼に手を伸ばせば、一期は苛立った様子で、私の手を乱暴に跳ね除けた。
「だからっ……お気になさらないで下され……っ!大丈夫ですから!」
精一杯に心配したつもりだったのに、あんまりと言えばあんまりなその態度にショックを受けた私が青ざめて目を見開かせると、その様子に気が付いたのか、一期一振も目を見開かせて、彼自身も落ち込んだようにぼそぼそと呟く。
「…………申し訳ありません…………私、私は…………ずっと貴女と夜伽をしたいと望んでいたのに我慢をしておりましたので……今日は理性が効かなかったのです……それが、貴女に無理をさせたばかりでなく…………まだ人の体に不慣れな私にとっても負担がかかっていたなどと……あまりにも情けなくて、みっともなくて……ああ、申し訳ありません……今の私はきっと、狂ってるのです。余裕すらも、何もない。ただ……貴女に私だけを見て欲しかっただけなのに…………っ」
最後は嗚咽交じりで、その綺麗な顔立ちを歪めた一期は膝をかかえて、泣き始めた。
そう、泣き始めたのだ。まるで幼子のように、体を丸めて。
どうしようなく悲しく辛い表情で。
呆気に取られた私は、暫くそんな彼を眺めていた。
何も言わず、何もせずに。

――ただ、貴女に私だけを見て欲しかっただけなのに。

こだまするようにその言葉が私の頭の中で何度も鳴り響いた。
やがて、私は再び一期一振に手を伸ばし、その丸くなった躰を包むように抱きしめる。
「……主殿……?」
「ねぇ……一期一振、私は……本当は今怒ってるんだよ。レイプみたいなことされて、休ませて欲しいって言ったのも無視されて……でもね、もしも本当に貴方が狂ってるんだとしても、私は逃げたりしないで、受け入れるよ。だってもう審神者と刀剣男士として契約も結んでるし、それに………」
その先を躊躇った私は言葉を止める。
だけど息を吸って吐き、覚悟を決めて、唇に声をのせた。
「本当は私も……貴方に初めて出会った時から、好きだったの。上手く言葉に出来ない気持ちで、ずっと……貴方に魅かれていたんだと思う。だから……私はとっくに、一期一振だけのものになってるんだよ」
「……………………え?」
大人しく聞いていた一期一振が顔を上げ、信じられないという表情で私を見つめた。
泣き腫らした瞳をぱちくりと瞬かせて、穴が開くくらいに私を見つめてくる。
「今、なんと仰ったのです……?私を、『好き』だと?本当ですか?」
夢の中に迷いこんだように困惑する彼に、私ははっきりと頷いた。
「うん、そう。私は、一期一振が好き」
「…………ああっ………」
一期一振がくしゃりと顔を歪めて、再び瞳から涙を零した。
「……どうし、てっ……私も、気付か、なくて……っ……ああっどうして、こんな……」
「ごめんね、黙ってて」
「いえ……いいえっ……」
喜びと驚きと、さらに疲れと、精神的な不安定さも相まり、一期一振は私に縋って泣き続ける。
成人男性が、まだ十代後半の女にしがみついて泣く図を、自分が体験するなんて思わなかったと思いながら私は自分でもはっきりと心の中で形に出来ていなかった気持ちを、ようやく本人に告げられた事に安堵をしていた。
振り返れば、電気もついていない室内で一期一振が私を待っていたのを見た時から、この『告白』タイムが来てしまう予感がして、それで私は、そういう自分の気持ちが露わになる事から逃げたかっただけなのかもしれない。
だけど、一期一振の様子がおかしいのも確かで、それは今も止まっていないのだろう。
いくら恋だ愛だと感じられても、両思いになれても、私は審神者で、彼は刀剣男士なのだから。
「あの、主殿……接吻をしても、よろしいですかな?」
「うん、いいよ」
わざわざ確認まで取り、嬉しそうな顔をした一期一振は私へ顔を近づける。
優しく触れるだけのキスが降ってきて、顔が離れた一期一振は今日初めて見るほどの優しい顔で微笑んでいた。
「……有難うございます」
琥珀色の瞳が濡れて、感極まったように揺れて、それから力を入れて私を抱きしめる。
「私はこれからも貴女様を全力でお守りいたします。身も心も貴女様に忠誠を誓いましょう。ですから……」
もう躊躇わずに彼の腕に抱かれる温かさに身を委ねて目を閉じた私はようやく今日起きた事が一段落した気持ちで心地よい声を耳に捕えて『相変わらず一期は言葉選びが大袈裟だけれどもそういうところも好きかも……』とか呑気な事を考えていたものだから一つ呼吸を置いてから続けて聞こえた言葉にぞくりと背筋が粟立つと同時に何か根本的なことを考えることを忘れていたんじゃないかと思い出してしまう。

「決して、私を裏切らないで下され」

絶句していると、口元は笑んでいるのに瞳が笑っていない表情が私を見下ろしていた。


嗚呼……もしかして、もしかしたら。
私は一期一振(刀剣男士)の踏み入ってはいけない領域に、入ってしまったのでは。
もしくは彼から強引にその領域に引きずり込まれたのでは。
だけれどもう遅い。
彼が私を愛しているように、私も彼を愛してしまったのだから。
それがどれだけ歪んだ独占欲に染まった恐ろしいものだとしても、私はもう、彼に見初められてしまったのだ。
人と神の垣根を越えて。
その先の結末すら誰も教えてくれずに、底無し沼に全身を漬け込むようにして。
2017/01/29(11:54) | Comment:0
Secret