SAC25話夜の捏造

(※性的な表現が含まれますので18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい)
「ソファで寝るのは私よ。あなたはベッドで寝て」
明日の出発は早いから今日はもう寝ましょう、と、バトーをセーフハウスの寝室に連れて来た素子は事も無げにそう言った。
「おいおい、俺が怪我してるからって気ぃ使ってんのか?俺がソファに決まってんだろ」
いつになく優しさを見せる素子に動揺しながらも、バトーはどっかりと大きなソファに腰を下ろす。
公安九課のビルのすぐ傍の高層ビルの一フロアを貸しきった素子のセーフハウスは目を見張るほどに豪華な作りだった。寝室もリビングかと見間違うほどに広い。ソファもテーブルも揃い、シャワールームまであった。今はカーテンで覆われている窓も絶景の夜景が見渡せるのだろう。ソファだって黒い皮敷きで、シングルベッド位の大きさがある。
「ほら、お前も早く寝ろよ。俺はここでいいから」
さっさと体を横たえたバトーが素子の顔も見ずに言えば、短い沈黙のあとに、ふわりとバトーの体を持ち上げる細い腕があった。
「えっ、おま、何してんの!?」
「見ればわかるでしょ。バトーを運んでるのよ」
全身義体の素子にとってバトーの体は重くもなんともないらしい。
バトーも右腕がないせいか上手く抵抗できず、あっさりと素子の手で大きなダブルベッドへ横たえられてしまう。
「いや、おま、ちょっ待てよ!そりゃ今は俺は怪我人だけどよ、気ぃ使いすぎじゃねぇかって言ってんだよ!お前がそんなんじゃ、調子狂うだろが!?」
バトーは分かりやすい程に動揺していた。
少佐は、アームスーツにやられて右腕が無くて腹部に怪我を負った位でこんなに優しくしてくれるような女だったろうか。
それとも――。
バトーの脳裏に、先ほど軍事ヘリの照明から少佐を庇った時に、間近で見た少佐の表情が浮かび上がる。
バトーは咄嗟に舌打ちをしそうになった。
少佐のあんな表情を見たあとで、明日は残った二人だけでこの地から出発しなければならないというシチュエーションで、一晩を同じ部屋で過ごさなければいけない。
それは最早、今のバトーにとって拷問に近い。

沸騰しかかったバトーがベッドから起き上がれば、妙に冷静な表情で、少佐から見下ろされていた。
そうして次には、もっととんでもない事を言い出したのだ。
「わかったわ。私も一緒にベッドで寝る。それならいいでしょう?」
「……………はぁ!!?」
バトーは叫んでいた。
拷問が最早拷問ではなくなっていた。
むしろ何にも勝る歓喜へと変化したとも言える。
だがそれは、なんでも下半身で考えてしまう男の悲しい性による早とちりに過ぎないと、バトーだって知っている。
少佐はとっととベッドへ潜り込み、バトーの横へ寝そべった。
もちろんバトーの体は少佐の手によって押されて、少佐との間には、もう一人大人が寝れる位の距離ができた。
幸か不幸か、大きな敷き布は二人共用で、どちらかが身じろぎするたびに軽く引っ張られ、互いの体温までも伝えていた。
思考停止したバトーは、こちらに背を向けた少佐につられるように、自身も彼女に背を向けて体を横たえた。

だが。
十数分経っても眠りに着けなかったバトーは、無意識に、いや、もう堪えることができずに、口を開いていた。
「………お前、本当に俺が何もしないって思ってんのか?」
「…………………」
返答は無かった。だが呼吸の仕方で、彼女が寝付いていないのは知っていた。
バトーは左腕を使って上身を起こし、素子の細い肩へ、腕を伸ばした。
「………素子……」
名を呼んで肩を掴んでも、素子は反応しない。
それがバトーへの否定なのか肯定なのか。
この状況を作り出したのは素子のはずなのに、またしても素子から測られている事に苛立ったバトーは、もう理性が効かなかった。
衝動的に素子の腰に腕を回して引き寄せて、白く綺麗な首筋に顔を埋めた。
こんな時に限って右腕が無いせいで、うまく体勢が作れず、逃げようとする素子の体をがっちりと抱きこむこともできな………。
ん?あれ?
素子の匂いや体温を至近距離で充分に堪能しながら、直接唇や肌で触れながら、バトーは気がついた。
素子が何も抵抗していないことに。
試しに体をまさぐりながら豊満な胸をわし掴んでみたが同じだった。
さらに首筋を舐めてから唇へと辿り着き、無遠慮に自身の唇で塞げば、細くしなやかな腕がこちらの体へ回された。
「んっ……ふ、ぅ………ちゅっ」
最後のリップ音は素子から。
呆気に取られたバトーが素子を見つめれば、素子は何でもないことかのように微笑んでいた。
「なぁに、その顔は。不満なの?」
「……え、いや、不満ってこたぁないけどよ………」
「だったらいいじゃない。私と、こういうことを、シたいんでしょう?」
素子の手がバトーの胸板から腹、下半身へと滑っていく。
すでに硬さを持ち始めてる熱を、ズボンの上から優しく触れては、焦らすように撫でる。
「……いいのか?」
「ふふっ、ここまで来て確認取る男なんて、バトーくらいよ?あなた、いつもベッドではそうなの?」
素子は楽しげに軽口を言いながら、バトーの包帯が巻かれてない部分の肌へ唇を這わしていく。
硬さを増していく熱の形に触れながら、ズボンのジッパーを下ろす。
音を立ててベルトも外し、器用に下着ごとズボンを下ろせば、バトーの昂ぶりが天を向いて露わになった。
「体の割りには、こっちは元気そうね」
やはり素子は楽しそうで、バトーは呆気に取られたまま、昂ぶりに口付けては舌を這わせる素子を眺めている。
『棚からぼた餅』以上となった状況でバトーの分身は素直に硬度をあげていくのに、燃え滾る欲望は腰から背にかけて深く渦巻くのに、バトーは何かの言葉を口に出そうとして躊躇う己に気が付く。
……何故、今この状況で。
いやこんな状況だからだ。こんな状況だから、言いたくなることが山ほどある。だが……。
悩んだ末にバトーは素子の肩に手をかけ、顔をあげさせて乱暴に唇を塞いだ。
舌を割り込ませ、奥へと差し込む。応えようと蠢かせた素子の舌を捕えて、吸って、乱暴に撫ぜては、深くキスをし続けた。
その内に左手は黒のタンクトップを捲り上げて、ふくよかな乳房をこれでもかと揉みしだいた。
見るだけでは知りようがなかった柔らかさと肌の滑らかさを感じながら、腹、下腹へと手を滑らせ、一息に素子の下着までも剥ぎ取る。
ようやっと唇が離れれば、素子はそんなバトーに余裕のある微笑を向けた。
「急いでるなら、挿れていいわよ。気を遣わなくていいわ」
「……ああ、元よりそのつもりだよ」
わずかに黙ったバトーは、素子の足を折り畳むように開かせ、低く囁いた。
余裕なんかありようも無かったが、胸に渦巻く言葉を吐き出す余裕も無いのだ。
ただ肉欲的に求めることは許されてると言うならば、衝動的に、バトーは追い求めたものを手に入れてしまう事を心に決めただけだった。

「挿れるぞ」
眼前に晒された秘部に触れ、濡れているのを確認してから逸物の先端をあてがった。
残された左腕で寝台へと手をついてはいるが自身の体重を支えるには不十分なのは致し方なかった。
自然と素子へ体重を預ける形で腰をすすめ、それを素子が嫌がる素振りもなく奥の奥まで辿りついてバトーは深く息を吐く。
繋がれた充足感で軽い眩暈を覚えていると素子のしなやかな足が腰へと絡まりついた。
背にまでも両腕が回されて力をこめて躰を横倒しにされて、さすがに声をあげると、
「おい、どうしたんだ」
「ちょっとね、焦れったいのよ。私が動くわ」
さらりと返った言葉通りに素子が腰を使い始める。
更に唇まで素子の唇で塞がれて、中途半端な騎乗位はごく普通の騎乗位へと変わり、決して急がずにリズミカルな動きで追い込まれていく。
負けじと下から突き上げるも、素子は不敵に笑んで、きゅぅっとこちらを締め付けた。
「……もとこっ………っ」
眉間に皺が寄る。熱いぬかるみが、バトーを溶かそうとしている。
露わになったバストは素子が動くたびに揺れている。
高性能義体と素子自身のテクニックなのか。
それともバトーの精神状態が関係するのか。
答えが出ないまま、下から突き上げ、ぎゅうと絞られて、挿送が速まる。
ぎりぎりのぎりぎりまで追い込まれ、せり上がった震えで、バトーは白い欲望を解き放った。
素子は動きを止め、息を整えつつ、そんなバトーを見下ろしている。
やがてバトーの額に指先で触れ、頬、顎、首筋、鎖骨、胸板と辿って、囁く。

「バトーは……私を、好きなのか」
見上げれば、素子は固い表情をしていた。
バトーは火花が飛び散るような感覚が脳を貫いたのを感じながら、口を開いた。
……妙に清々しく、軽くなっていく心で。
「ああ、そうさ」
「何故?」
「今更、理由なんか要らねぇだろ」
「………………」
「迷惑なのか?なら、何故、俺を受け入れたんだ。お前は嫌がってなかった。そうだろう?」
「……それとこれとは別の話でしょう」
難しい表情で呟いた素子にバトーは引こうとはしなかった。
「いいや、同じ話さ。俺は素子を愛してる。体だけじゃなく心も求めてる。それは可笑しいことなのか?お前から拒絶されることなのか?セックスは拒まなかっただろう?」
「………だから、それとこれとを同じ話にするなと言っている。私はセックスに快楽は求めても感情までは求めない。ずっとそうしてきたからだ」
「お前はそうでも俺は違ぇよ。そこに価値観の違いがあるっつうなら、それはお前が一方的に感じてるだけだろ。俺は……」
バトーは上身を起こし、素子の腰のくびれに腕を回して力強く抱き寄せた。
抵抗しない素子に、言う。
「お前が俺の外部記憶装置であるように、俺も、お前にとって掛け替えの無い存在でありたいと願ってる。お前は、未だお前を抱きたいと思う俺を拒めるのか。こんなんじゃ足りねぇって、例え犯してでも、何がなんでもお前の全部が欲しいとエゴイストになってる俺から、逃げられるのか。……もし逃げてもなぁ、俺は追いかけるぞ?地獄の果てでもな」
至近距離で見つめ合う義眼の視線を、素子の紅い瞳は受け止めざるを得なかった。
微動だに動けずに、素子の奥から何かを引きずり出そうとする男から逃げることが出来なかった。
躊躇と逃避は打ち砕かれ、素子は力が抜けるように苦笑して逆に自分の方から男を抱きしめた。強く。
「……あんまり好き勝手言ってると、どうなっても知らないから」
「へぇ……どうなるって言うんだ?」
予想外な返しにバトーは口の端を持ち上げる。すでに痛覚器官は切ってある。問題ない。……恐らく、だが。
「そんなの簡単じゃない。バトーが私を欲するなら、私も……バトーの全部を頂くわ。それでフィフティフィフティでしょう?」
「そりゃぁ……楽しみだな」
素子の艶やかな吐息が耳をくすぐる。ちろりと耳朶を舐められ、甘噛みされ、やがて正面へと戻ってきた桜貝のような唇はとっくに濡れていた。
何度目かわからない接吻を啄ばむように互いに繰り返す。
「やはり怪我の割りには元気そうね」
未だ抜かれてなかった昂ぶりはすっかり元気を取り戻し、素子の中でその存在感を強く主張している。
「……タフじゃなきゃ九課じゃやってけねぇだろ?」
「そういうタフさは求めてないけどね」
「嘘付け。もう腰を揺らしてるじゃねぇか。なぁ後ろから挿れていいか?そのほうが動きやすそうだ」
一度だけ瞳を瞬かせてから素子は四つん這いになり、こちらへ背を向けた。
バトーは素子の腰に手を添えて、互いの体液で濡れそぼっている其処へ後ろから剛直を挿入する。
「……っぁ……っ」
頭の中には素子に言われた言葉がぐるぐると回り、腰を引いてから突けば、白く美しい背が震えて、擦れ合う敏感な箇所からの快感も、聴覚と視覚から得られる今の状況も、高まっていく興奮を通り越してしまった非現実なものとしてバトーを包み込んだ。
現実だとわかっていても想像で思い描いていたものとは違い、細やかな技術やら気遣いやらも頭に浮かばず、バトーが動く度にどういう反応を彼女がしているのかだけが鮮明に感知されていく。
……ああ、これではまるで、自分の為だけのアダルト映像を見ているようだと思う。
生々しいことよりも、右腕が無い不便さばかりが思考をよぎるが、二度目の射精は出来るだけ引き伸ばしたいとも考えていた。
彼女相手では無理な話なのだろうが……。
「あっ……は、っん……あぁっ」
甘く喘ぐだけの素子の奥深くまで剛直を押し付けて、動きを止めて、柔らかな乳房を手に包む。
乳頭を指と指で摘んで刺激すれば高く声が漏れ、びくんとバトーの下で女体が震えた。
緩やかに、緩慢に腰を押し付けて、奥を抉るようにしながら、胸の頂を執拗に責め続ける。
「あ、っん……や、……っあ、あぁっ!」
余裕のない喘ぎが聞こえる度に、バトーは雄としての征服欲が満たされていくのを感じる。
だが。
もっとだ。
もっと、もっと、強く。深く。
ポーカーフェイスの彼女の余裕を砕ききってしまわなければ。
「……ここも、感じるだろう?」
上半身を起こし、自身の膝で自身の体重を支えながら、左手をずらして、素子の腹から下腹部へと移動させる。わずかな茂みに守られているかのように辿り着いたその箇所を、指の腹でそっと撫でて、刺激する。
「あっ……あ、っんぁあ……!」
嫌がるように素子の体が揺れる。其処への責めを止めず、ねっとりと後ろから素子の耳朶を舐めた。
きゅうぅと素子の膣が剛直を締めあげる。感じているのは間違い無いのだろうが、ほんの僅かに何かが足りないと感じてしまうのは、夢見ていた素子との肉体的交合が、あまりにも物理的な事へと昇華されている目の前の現実を、未だに受け入れていない己が居るからなのだろうか。
どう考えても欲張りにしかならないその気持ちは、より強い快楽よりも、より刺激的で甘美な淫欲よりも、精神的なものを求めているのだと、バトーの心の奥底で暴れまわっている。
バトーはそういう己自身に苦笑いをしながら、腰を打ちつけた。
桃のように良い形の尻を高く上げさせ、何度も何度も、いきり立つ肉茎を奥へと穿ち続けた。
激しい出し入れで、素子の愛液が白く泡立つ。
素子の喘ぎにも余裕がない。悲鳴のような苦悶のような声は、確かにバトーを受け止めようとしている。
自分勝手な動き方への不満すら上がらず、バトーは動きをただ速めるだけだった。
「くっ……出すぞ……っ」
限界を超えて膨れ上がった男根からついに精を解き放つ。
素子の体はびくんびくんと震え、ベッドへと崩れ落ちる。
その横へ、バトーも仰向けで倒れる。
どちらの肌も汗にまみれ、熱気が部屋に満ちていた。
そのまま15分ほどの時間が過ぎた。
息も整え終わり、素子が体を起こしベッドから降りた。
シャワーでも浴びに行くのだろうか。
そう思って眺めた彼女の白い背や尻があまりにも綺麗でただの美術品を見ているようでもあると思いながら、脳裏に一瞬で過ぎった焦燥にバトーは考えずに口を開いていた。
「……俺がお前を何度抱いても、なんか変わるわけじゃねぇのかな」
素子が振り返る。幾度か瞳を瞬いてこちらへと戻ってくる。
バトーを見下ろして一つの息を吐いた。
「今はまだ九課の存亡危機の最中(さなか)で、私達は追われてる身なのよ。私もこの状況に同意はしてたけど、そこまでセンチメンタルな感傷にふける余裕はどこから来るのかしらね?」
呆れてるようでもあるし、困ってるようでもあった。
「そんなのぁわかってる。俺だってわかってるさ。だけどよ……」
言葉を詰まらせたバトーに、素子は再びベッドに乗り、ただバトーを抱きしめた。
「……まだ私達が無事に逃げ切れるかもわからない。だから、この続きは、生き延びて状況が落ち着いてからにしましょう。それに……バトーならきっと、地獄でも私を追いかけて来てくれるでしょう?」
「……素子………」
「私も……まだ貴方に言いたい事を、言い終えてないわ」
「………今、言ってくれないのか?」
「駄目ね」
「何故?」
「さぁ……私にも、気持ちの整頓位は必要なのかもね」
冗談めかして言う素子は、小さく微笑んでいた。
バトーは暫しそんな彼女を見つめ、残された片腕で抱きしめ返す。
「………ああ、わかった。待ってる。俺が……お前を離す訳が無いからな。だから……ずっと、待ってられるさ」
どちらからともなく近づいた唇は重なり、余韻を残して離れた。
カーテンに覆われた窓の外、新浜市街が微かに白み始めている。
太陽が東から昇り、長く濃い夜の終わりを告げていた。
どんな窮地も覆してみせる、かつては『戦場の女神』と呼ばれた全身義体の女と、その傍に寄り添う騎士のサイボーグ男。
心の全ては交われずとも、確かにどこかで強く繋がっているものを決して離してはならないと互いに強く思いながら――。
<終>
2016/08/31(02:59) | Comment:0 | TrackBack:0
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