「月刊少女野崎くん」で
のざちよです
高校三年生になったふたりの話。

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野崎との『初デート』に浮かれる千代は野崎のマンションを訪れる。そうしてリビングに置かれていたモノに千代は驚き、さらに野崎が発した言葉と行動に翻弄されていくが、胸中に宿った想いから彼にある質問を投げかけて――。

(※性的な表現が含まれますので、18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい
千代はうきうきした気持ちでその玄関の前に立った。
『606 NOZAKI』と表札が書かれたマンションのその一室は、千代が今までに何度となく通ってきた場所だ。
あまり一般的とはいえない野崎との不思議な関係が始まったのは、去年の春だった。
千代が野崎に告白する前に思い描いていたものとはかなり違っていたが、それでも千代は幸せだった。
野崎に出会った入学式の日から一年余りも長い片思いをしてきたからだ。
普通に話すこともままならなかった日々を思えば、ただの便利なアシスタントか、同じ学校の友人としか思われてないとしても、千代は野崎と過ごせる時間を奇跡のように感じていた。



千代は深く息を吸って吐いてから、玄関のインターホンを押す。
いつになく緊張しているのは、今日は今までと全く違う日だからだった。
一年以上も続いてきた野崎との不思議な関係に、大きな転換期とも、千代にとってはゴールとも言える時が訪れたのは、まさに昨日のことだった。





はじめは他愛無い話題だった。
この頃は学校の帰りを一緒に歩くことも珍しくなかった。
自転車を押す野崎の横に並んで千代はにこにこと彼の話を聞いていた。
不意に彼が『佐倉は……好きな人はいるのか?』と口にしたときも、千代は反射的に元気よく『うん!』と頷いてから、その質問の意味に気づいて固まった。
そういえば前にも同じようなことを聞かれて、遠回しに野崎の特徴を挙げたにも関わらず全く気づいてもらえなかったことを思い出した千代は、それでも、ばくばくと高鳴ってしまう自らの鼓動を感じながら、彼の横顔をそっと窺えば、
「……そうか」
とつぶやく彼の無機質な表情が真っ赤な夕陽に照らされて、それは何かの映画のシーンのように綺麗で、その瞬間、千代の脳裏に今まで彼と過ごした日の記憶と、これからのことが走馬灯のようによぎった。

(……私、本当にこのままでいいの……?)
(このままずっと卒業まで、野崎君の漫画を手伝って、ただのトモダチとして過ごすの?)
(それで充分幸せだと思ってた。思ってたけど……だけど、やっぱり私は……!)

水面に小石が落ちたように揺れた気持ちと焦りは、あっという間に大きくなっていく。

千代に合わせてゆっくりと歩いている彼の歩幅を感じながら、今の状況に吸い込まれるように、千代は口を開けた。
「……あっ、あのね!私がっ、好きなのは……好きな人は、のざ――」
「俺は、佐倉が好きなんだ」
すべて言い切る前に、突然降ってきた言葉に、千代は文字通り固まった。
「……………………へ?」
野崎は足を止めて、目を点にしている千代に、もう一度言った。
「俺が好きな人は、佐倉なんだ」
いつもと同じ無愛想さで野崎は繰り返した。
目が点のままの千代は、数十秒以上硬直してから、突然、ボンッと顔を赤く染めた。
「………あっ、あの、その……っ、『好き』って、それって恋とか、恋愛とか、そういう意味デスカッ!?」
耳まで真っ赤になった千代を冷静に観察している野崎に見つめられて、ほぼパニック状態の千代は、そう口走る。
「ああ、そうだ」
間髪入れず返されて、すでにショートしていた千代の思考回路は、パーンと弾けた。
耐え切れず俯いて、肩を震わせると、野崎から心配そうに声がかかる。
「さ、佐倉?大丈夫か?その、俺は……」
自分の告白のせいだと勘違いした野崎の言葉を遮って、千代は言った。
「……わたしって、野崎くんの初恋の人?」
「え?あ~……そういえば、そうだな。うん、佐倉が、俺の初恋だな」
唐突な質問にも、考えるように視線を彷徨わせてから、野崎は頷いた。
初恋もまだだと言っていた去年の彼を思い出しながら、千代は、ぐっと唇を引き結んだ。
顔をあげて、高い位置にある野崎の顔を精一杯に見つめて、震えながら、言った。
「私が好きな人はね……野崎くんだよ」
千代は、一年前に言えなかった告白を、眩いほどの夕陽の中で、ついに成し遂げたのだった。
泣きそうな笑顔で――。







インターホンを押すと、ピンポーンと音が響く。
中から急ぐような足音が聞こえてから、玄関の扉が開く。
「こんにちは~、野崎くん!」
「いらっしゃい、佐倉」
元気の良い千代の挨拶に、野崎は心なしか笑顔で迎えた。
今日は学校帰りでなく休日なので、互いに私服だった。
靴を脱いでリビングへ入ると、いつもと同じ空間が、少しだけ違う意味でそこにあった。

『明日、俺の家に遊びに来ないか?』
昨日、怒涛の告白タイムのあと野崎に誘われた千代は、迷わずに承諾した。
いつも野崎の思わせぶりの言動に振り回されてきた千代だが、今回は両思いになってからの初めてのお誘いである。
誰の疑いも反論の余地もない『野崎くんとのデート』に、千代は心躍る気持ちだった。
「飲み物いれるから、そこに座っててくれ」
キッチンへ入っていった野崎に言われ、千代は大人しくテーブルの傍に座る。
なんとなくそわそわしながら待っていると、不意に千代はテーブルの上に置いてある小箱に気がついた。
新しい画材か、漫画の資料だろうかと思って何気なく手にとって、千代は、昨日の衝撃を上回るほどに、その場に凍りついた。
そうこうしてるうちに野崎が戻ってきて、紅茶と茶菓子をテーブルへ置きながら、千代の様子に気がつく。
「佐倉?どうかしたのか?」
千代はギクリと身を震わせてから、野崎へと、その小箱を見せた。
「……あっ、あの、野崎くん……これ……っ」
挙動不審な佐倉に、小箱を差し出されて、野崎は合点がいったように頷いた。
「ああ、コンドームだな」
なんでもないように言われて、千代はますますいたたまれなくなった。
あわあわとうろたえているうちに、野崎はキチンと座ってテーブルにつく。
湯気がたちのぼる紅茶と、綺麗に皿に並んだお菓子。
そしてその横に置かれたコンドームの小箱。
ある意味シュールなこのシチュエーションに、言葉につまって固まっている千代に、野崎は普段と同じ様子で言った。
「じゃ、シよっか、佐倉」
「……か、軽い…………っっ!!」
思わずツッコまずにはいられなかった。
『シよっか』の意味はそういう意味なのかと問う余裕もなかった。
さらに野崎もおかしい。いや、そういえば彼はいつもおかしい。
真面目な表情で、お茶会(初デート)開始のその序盤で、いきなりのクライマックススタート宣言である。
「ちょっ、ちょっと待って、野崎くん……っ!シよっかって、それって、つまり……」
「俺と佐倉で○○○○(ピーーーー)や○○○○(ピーーーーー)したり、○○○○(ピーーーー)する、いかがわしい行為のことだが」
放送禁止用語すれすれの単語の説明は、千代の想像通りのものだった。
千代は眩暈がするのを覚えた。

……大丈夫だろうか。私が好きな人はこの人で大丈夫なんだろうか。いや、もうすでに昨日から晴れて恋人となったのだ。その翌日からこれで大丈夫なんだろうか。いや、ある意味健全といえば健全だけど……何かが、何かが違う……!(泣)

「……いや、あの、でも私たち……キ、キスもまだだし、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、急ぎすぎじゃないかなーなんて思っちゃったりするんだけど……」
それでも大好きな野崎に対して言うには、それで精一杯だった。
野崎は目を瞬かせてから、なぜかコクコクと頷いた。
「じゃ、キスしよっか」
「……だから、軽いっってば!!野崎くん!!……って、え?」
ついに泣き出した千代がそう叫ぶと、すぐそこに野崎の顔があった。
「佐倉、目を閉じて」
わずかあと数センチに迫ったところで言われて、場の状況に流されるままに千代は目を閉じてしまった。
最初に感じたのは吐息。
次いで唇に触れたものは柔らかくて、温かい。
躊躇うような優しさで触れてから、一度離れて、再び触れたときは、腰に腕が回されていた。

どれくらいそうしていたのだろう。
ようやく顔が離れて、千代は酸素を求めて大きく息を吸う。唇の端から、唾液が零れ落ちる。
野崎はそれを指でぬぐって、ポツリと言った。
「……ずっと、佐倉に言ってなかったことがあるんだ」
生まれて初めてのファーストキスの予想外のディープさの余韻に、千代はぼんやりした表情で、彼を見あげる。
「……私に、言ってなかったことって……?」
野崎の雰囲気がいつもと違うと気づきながら、千代は問い返す。
「………………」
野崎は無言のまま、千代の手を手にとる。
細い指をなぞるように指を組んで、引き寄せて、唇を寄せる。
「の、野崎くん……っ!?」
手の甲をぺろりと舐められて、指を野崎の口に含まれて、千代は声をあげる。
「……ずっと……佐倉に、触れたかったんだ。唇だけじゃなくて、手だけでもなくて……もっと、佐倉に触りたい。……駄目か?」
掠れるような、低く甘い声。
縋るように見つめられて、千代は十数秒ほど硬直してから、顔を真っ赤に染め上げた。
「………え、あのっ、その……駄目じゃ、ないけど……っ……でも……っっ」
とっさに野崎から視線を外すが、しどろもどろで言葉にならない。
野崎は、しばらく千代の言葉の続きを待っているようだったが、やがて待ちきれなくなったのか、千代の体を軽々と抱き上げた。
「え、え!?」
片手で千代の体を支えて、リビングの隣の寝室のドアを開ける。
寝室のベッドにそっと千代の体を下ろして、再び口付けると、胸のあたりを強く押されて、野崎は渋々顔を離す。
「……佐倉?」
「あっ、あのね野崎くん……私、初めてだから、その……やさしく、して欲しい……」
涙をいっぱいに溜め込んだ瞳で、伏目がちに、最後は消えるような声で言われる。
野崎はしばらく黙ってから、言った。
「俺も初めてだから、大丈夫だ」
「……え、いや、大丈夫って、それ逆じゃない?……あ、でも、私以外の人が野崎くんのハジメテなのは、嫌だし……うーん……」
お互いに性行為初体験同士の、期待とも不安ともつかない感情を誤魔化すためか、千代は思うままに口にする。
その間も、野崎は、千代の服に手をかけて、スカートのホックを外す。
千代は思わず声をあげたいのを、口に手をあてて堪えた。
ブラウスのボタンも一つずつ外されていく。さすがに漫画の資料の為なら女装も厭わない野崎は脱がす手の動きに迷いがない。
ついにブラジャーのホックが外されて、肌が外気に触れて、千代は恥ずかしさで固く目を瞑る。
黒のハイソックスと下着以外は何も纏っていない体に、野崎の視線が降り注いでいるのを感じた。
部屋の電気はついていなかったが、不幸にも今は昼間で。
閉じられたカーテンを透けて差し入る太陽光だけでも、千代の体を眺めるには充分なはずだった。
「……綺麗だな」
ポツリと零れた言葉に、千代は驚いたように目を開ける。
同時に、野崎の手が、首、鎖骨、腹へとなぞるように千代の体を撫でていく。
脇腹から腰、尻、太ももへと撫でてから、膝裏に手をいれて持ち上げて、内股に顔を寄せる。
「……っん……っっ」
柔らかい白肌に生温かい舌が触れる。舌先で肌をなぞってから、強く吸い付く。
何度か繰り返している野崎に、千代はされるがままに声を堪えた。
「キスマークって本当につくんだな……」
ややあって、野崎が感嘆したように呟いた。
(キスマークって、あの赤い……?)
ぼんやりと千代が考えるあいだに、野崎は手を伸ばして、千代の胸に触れる。
「……あ……っ」
小さくなければ大きくもない千代の胸を、大きな手で包むように揉まれて、千代はくすぐったさで身をよじらせた。
もにもにっ。むに、むに……、もみもみ。
……触る感触が楽しいのだろうか。両の手をたっぷり使って、ずっと揉んでいる野崎に、千代は、どう反応したらいいのか次第に悩みだした。
「あ、あのっ、野崎くん……」
「うん?」
千代の問いかけにすら上の空である。
なんだろう……。こういう時はどうすればいいんだっけ。
早々と初体験を済ませた同級生女子から、痛いとか痛くないとか感じてるフリがどうしたとか昨日はやりすぎて腰が痛いとか、そんな話を聞くこともあったけど、千代からしたらまだ遠い出来事だったので、あまり真剣に聞いたことはなかったことを、今日ばかりは悔やんだ。
感じてるフリと言われても、揉まれてるだけで喘ぐのが普通なのかがわからない。
そもそも、くすぐったさと落ち着かなさがあるだけで、他は何も感じないのに……。
「その、私の、胸……揉むの楽しい?」
思わず口に出してみて、直球すぎたと気づいた。
野崎はすぐに答えた。
「楽しいというか、柔らかくて気持ち良いな。触ってると、妙に落ち着くし」
気持ち良いのは揉んでるほうだったのか……!
しかも『落ち着く』って!?
「佐倉は着痩せするほうなんだな。服の上から見ていたよりも大きい」
「……ぇ、ふぇっ……っ!?」
いきなり言われて千代は変な声をあげてしまう。
そして、野崎が体をかがめて、千代の胸の突起を口にふくんだ。
軽く吸われて、舌でねっとりと舐められて、千代は今までと違う感触に驚いたように息を漏らした。
「…ぁ、……んっ……ふっぁ」
片方を味わったら、もう片方を、という風に、たっぷりと唾液がまぶされて、野崎は音を立てて千代の乳首に吸いつく。
「んっ……ん、ぁあ……っ」
口に含まれてないほうの乳首も指先でこりこりと摘まれて、思わず千代は背を反らせた。
ソコに野崎の舌が触れるたびに、唇に包まれて吸われるたびに、痺れのようなものが体の奥を走っていく。
野崎の愛撫は幾度も繰り返されて、そのたびに体の奥の痺れが大きくなっていく。
……もしかして、これが、気持ちイイってこと?
いくら鈍い千代でも、気づき始めた頃に、
野崎の舌先が移動していく。胸の柔らかな膨らみをなぞって、鎖骨にも吸い付いて、白い首筋、赤く染まる耳朶まで舐められる。
「……キスしてもいいか?」
さっき口付けたら体を押されて拒否られたことを気にしていたのだろうか。
この期に及んで聞いてきた野崎に、千代は、顔を背けてから小さく頷いた。
顎に手が添えられて、野崎のほうを向かされる。
目を閉じろとも言われず、唇が塞がれた。
上唇を舌先でなぞられて、歯列を割って、野崎の舌が口に中へもぐりこむ。
さっきもしたディープキスを思い出しながら、千代は、突然、今自分が置かれてる状況に頭が真っ白になるのを感じていた。
ほぼ真っ裸の体を舐められるよりも、キスをするほうが、恥ずかしいのは何故だろう。
両思いだとわかったのはつい昨日のことなのに、今日はもう、野崎のマンションで、こんなことをしている。
野崎を好きになって二年以上が経って、その間はずっと片思いだと思っていた。
昨日の野崎の告白を思い出すだけで顔が緩んで、布団に顔をうずめて足をバタバタしたい気持ちなのに、今はそんな余裕も与えられない。
野崎から求められているのはわかるのに、それも健全な男子なら当たり前だと、千代にだってわかるけども、全てが超特急のように過ぎ去って行く、今の状況は――。






「……野崎くん、私のこと、好き?」
顔が離れて、互いに息を吸って酸素を補給してから、千代は、彼に訊ねた。
野崎は、少し間をおいてから、答える。
「好きだよ」
「いつから?私のこと、いつから好きなの?」
間髪いれず聞かれて、野崎は驚いたように目を瞬かせる。
「私はね、入学式に、野崎くんに助けてもらった日からずっと好きだったの。でもクラスも違うし、野崎くんは部活にも入ってないし、話すきっかけがなくて、私、軽いストーカーみたいなことしてた。バレンタインの日も、野崎くんに渡すチョコ用意して、『好きです』って書いたカードも入れたのに、野崎くんがあっちこっち行っちゃうから渡せなかったの。それからようやく決意して告白したのに、野崎くんに伝わらなくて、私、ずっと野崎くんの漫画手伝ってた」
「……………………」
さすがに野崎もうかつに返事ができなかった。
それはある意味、ずっと我慢してきた千代なりの、野崎への抗議だった。
「でも私、幸せだったよ。今も、驚いてるっていうか、ちょっと野崎くんについていけてない気がするけど、それでも――」
そこで野崎の指が千代の口にあてられて、千代は言葉をとめる。
指が離れて、ふわりと、頭を撫でられた。
「……知ってたよ。佐倉が俺を好きなのは、知ってた」
「……………………え、えええええええええええ!!?」
思わず身を起こして声をあげた千代を、野崎はふわりと抱きしめる。
「気がついたのは、最近なんだが……俺も佐倉を好きだから、どうしたらいいかわからなかった」
少女漫画家なのに、自らの恋に不器用。
そんなキャッチフレーズが千代の頭をよぎる。
「今まで通りに過ごさないと、と思えば思うほど、佐倉に触りたくなって……。だから、もう我慢できなかったんだ。すまない。佐倉には迷惑だったな……」
そうして、野崎は体を離して、千代の細い肩に服をかける。
「今日はここで終わりにしよう。それと……一緒にいると辛いから、帰ってくれるか?」
こちらに背を向けた野崎に申し訳なさそうに言われて、千代はその場に凍りついた。
『今の野崎くんについていけない』と言ったのは千代なのに、『帰れ』と言われて、この世の終わりかのようにショックを受けている自分に気がつく。
どうしよう。どうしたらいい。わからない。
野崎に負けず劣らず恋愛経験に乏しい自身を恨みながら、千代は、寝室から出て行こうとする野崎の背に、無意識に体を動かしていた。

「佐倉?」
後ろからしがみつかれて、野崎は動きを止めた。
「……やだ。帰りたくない。帰りたくないよ……」
聞こえてきたのは泣きそうな声だった。
「……でも、一緒にいると、佐倉が辛いだろう」
野崎は先程の余韻もあるせいか、刺々しい言葉を投げていると気づいたが、それも仕方ないほど今は余裕が無かった。
「……いいよ。それでいい。野崎くんのしたいようにしていいから……だから、帰れって言わないで、お願い……」
背中から伝わる小さな体の体温に、縋るような、千代の言葉。
野崎の中で、何かがプツリと切れる。
短い間のあと、くるりと千代へ体を向けて、泣きそうな目でこちらを見上げる千代の髪を一房、手に取った。
「本当に、いいのか?」
佐倉の息を呑むような気配が伝わってくる。
ややあって、こくりと頷いた佐倉に、野崎は再び彼女の体を抱きあげた。








「……っぁ、んっ……あ、やぁあ……っっ」
まだ若い少女の、嫌がるような嬌声が寝室に響く。
野崎は千代の足を大きく開かせて、其処に顔を埋めていた。
野崎の舌が、千代の女の部分を優しくなぞり、ひだに沿って舐めあげる。
愛液があふれてくる箇所に唇を押し当てて、中へ向かって舌をもぐりこませると、嬌声が一層高くなる。
はじめは『そんなところ、汚いよ……っ!』と嫌がっていた千代だったのに、次第に、艶っぽい声だけを漏らすようになった。
わざとらしく水音を立てて、野崎は舌を動かし続ける。
そして、ソコを舌で軽く押したとき、千代の体が軽く跳ねた。
「やっ…そこ、だめっ……あぁぁ…っ!」
いわゆる陰核と呼ばれる、女体にとって最も感じる場所だが、千代に対しても効果覿面だったようだ。
舌でなぶって、ちゅうと吸うと、びくんびくんと千代の体が震える。
「だめっ……もう、無理っ……ぁ、ああぁぁぁあっ!!」
千代の腰が浮いて、ぎゅうと体が固くなって、膣からしとどに愛液があふれてくる。
思わず其処に指で触れると、その奥が収縮しているのが伝わってくる。
(……これがイくってことなのか?)
知識だけではない実体験を目の当たりにして、野崎はくらくらしている頭の中で、なけなしの理性を振り絞って、千代の様子をうかがった。
「佐倉、大丈夫か?」
はぁはぁと荒く息をついている千代は、恥ずかしいのか、腕で顔を覆っていた。
「……わかんない……けど、たぶん、大丈夫……」
初めての絶頂の直後で、思考を回せる状態ではないのは、千代のほうだった。
朦朧としながらも、野崎に気を遣っているのか、嫌がる素振りはしない。
そんな千代に野崎は、少し考えたが、もう止まれないのは事実だった。
まだ脱いでいなかった服を脱ぎ捨てて、枕元に置いた避妊具の袋を破る。
痛いほど勃起している自身に被せてから、千代へ言った。
「かなり濡れてるから、あとはほぐすだけなんだが……あと少し、我慢できるか?」
千代は黙って頷いた。
野崎は今すぐ挿れたいのを堪えて、指を一本、千代の膣へ入れる。
すんなり入ってホッとしながら、抜き差しして、二本目を入れようとして、やや狭いのを感じながら、時間をかけて其処を慣らしていく。
「……っあ、……は、ふっ、ぅんんっ……っ」
小さく聞こえる喘ぎを聞きながら、二本の指がすんなり入るようになった時、野崎は指を引き抜いた。
「挿れるぞ、佐倉」
言うやいなや、硬く滾っている自身の先端を、其処へ押し当てた。
「………っっあ!!」
腰を進めると其処にモノが呑み込まれていくのが見えた。
が、千代の体が強張り悲痛な声がして、野崎は動きをとめる。
「佐倉?痛いのか?」
千代は眉間にきつく皺を寄せている。
「佐倉、我慢しなくていいから、言ってくれ。痛いのか?」
千代はこくりと頷いて、彷徨うように持ち上げた手で野崎の腕をつかんだ。
そこにぎゅうと爪が立って肌に食い込んだが、野崎は振り払わなかった。
「佐倉、息を吸って、吐いて。力を抜くんだ」
あと半分。あと半分、挿入れば……。
どちらにも余裕が無い状況で、千代はなんとか息を吸った。
吐いて、また吸う。深呼吸で千代の胸が上下に揺れる。
少しだけ千代の中が緩んだのを感じたとき、野崎は腰を押し進めた。
「……っっっああ!」
千代の目尻から涙がこぼれる。
それを舌で掬いとって、野崎は言う
「全部入ったよ、佐倉。見るか?」
「……あっ……ぜ、んぶ?」
野崎に腕を引っ張られて、千代は軽く上体を起こす。
目を開けると野崎の下半身と自らの下半身が繋がってるのが見えた。
唖然としている千代に野崎はさらに言う。
「これから動くから」
「……え……これで終わりじゃ、ないの?」
千代の本音がだだ漏れの疑問だった。
「いや、むしろこれからを『本番』て呼ぶんじゃなかったか。ゆっくり動くけど、辛かったら言ってくれ」
淡々と言い放って、野崎は千代の細い腰をつかんでモノを引き抜く。
「……んんっっ……っ」
半分ほど抜けたころに、ゆっくりと押し込む。
苦しそうな表情をしながらも痛いとは言わない千代を見下ろしながら、狭くて熱いナカに眩暈がするほどの快感を覚える。
もっと早く腰を打ちつけたいのを堪えて繰り返すと、千代の声に苦痛だけではないものが混じるようになる。
思わず腰の動きをそのままに、千代の半開きの唇に吸いついた。
舌を差し込むと千代のほうから小さな舌が絡まる。
上も下も粘膜がいやらしい音を立てて、交わって、不意にぎゅぅとナカが締まって野崎は動きを止めた。体を起こして千代の腰を抱え直す。
腰を引いて奥へ打ちつけると、
「…ぁ、あっ……んぁ、っ!」
確かな甘い声が聞こえて、野崎はホッとしたように千代へ言った。
「あと、本当に少しだから……っ」
熱い壁へ自身の楔を穿ちながら、突くたびに揺れている胸を揉みしだく。
胸の突起を指で弄ぶと、千代の体が震えて恍惚な声を漏らす。
あやしく蠢くナカへ固く膨らみ切った自身を打ちつけて、背中から腰に向けて震えが走ったとき、思わず叫んでいた。
「千代……っ!」
「ぁ、あああぁぁ……っっ!!」
避妊具越しに大量の精を解き放つと、千代の躰も大きく震える。
びくびくと震える小柄な躰を抱きしめて、しばらくそのままでいると、耳元で遠慮がちな声が聞こえた。
「……野崎くん、あの……」
「うん?」
「あの、言い辛いんだけど……野崎くん、重い」
「あ……」
千代との体格差を忘れて体重を預けきっていたことに気づき、慌てて体を起こした。
「すまん、大丈夫か。……というか、いろいろ大丈夫か」
急に冷静になった思考回路で、野崎は青ざめ始めた。
千代から体を離すと小さくなったモノが抜け落ちる。使用済み避妊具のことを思い出して、慣れぬ手つきで外してゴミ箱に捨てた。
そしてふとシーツに目を落とすと赤い染みがあって、それが何なのか気がついた野崎はあわあわとうろたえる。
「さ、佐倉……その……」
言い訳する状況ですらないのに千代の顔色をうかがう彼の様子に、千代は目を丸くしてから、力が抜けたように小さく笑った。
「大丈夫だよ、私は大丈夫。……野崎くんは?」
おそるおそる聞かれて、野崎は少し考えてから言う。
「……大丈夫どころか、すごく、良かった。佐倉、ありがとう」
「……………………え」
真顔で言われて、その意味に気がついた千代の目は点になる。
「え、あの、そんな……お礼言われると、なんか恥ずかしいから、やめて欲しい……」
湯気が出そうなほどに照れた千代は、体をうつ伏せにしてシーツに顔を埋めた。
まさに今こそ足をバタバタさせたいのに野崎の体が邪魔でできない。
その代わりに無言で悶絶している千代に、野崎は今日最後の爆弾としてさりげなく言った。
「あと、言い忘れてたというか、本当はこっちが先の話だったんだが……これを見てくれるか佐倉」
野崎はさっき脱いだ自分の服のポケットに手を突っ込む。
綺麗に折りたたまれた白い紙を取り出して、悶絶を中断して身を起こした千代へと広げて見せた。
「…………コ、コンイン、トドケ?」
みるみるうちに目を丸くした千代は、たどたどしく読み上げた。
そこにあったのは間違いなく『婚姻届』の三文字。
すでに『夫になる人』の欄は野崎梅太郎の名前で埋められていた。
硬直した千代へ野崎は涼しく言い放つ。
全裸のままで。
「――結婚しよう、佐倉」
2014/10/05(00:14) | Comment:0 | TrackBack:0
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