「あたしね……ガウリイのこと、好きだったの。……ううん、今も好きで、これからもずっと好きだと思うわ」

何度もセックスしたあとのベッドの上で、彼女はこんなことを言った。
優しく髪を梳かれながら、心地よさそうな顔で。
※ゼロス→リナ→ガウリイの、ゼロス×リナです
※現代パロディ。三人とも大学生です










「あたしね……ガウリイのこと、好きだったの。……ううん、今も好きで、これからもずっと好きだと思うわ」

何度もセックスしたあとのベッドの上で、彼女はこんなことを言った。
優しく髪を梳かれながら、心地よさそうな顔で。

「ガウリイはあたしに優しいわ。子供のころから、あたしはガウリイと一緒だった。高校も、大学も同じ所に通って、気が早いあたしたちは、婚約までしてたの。……まだ子供なのに、将来を決めて、お互いの仲を固く誓って、ずっと一緒にいようって決めたのよ。こうして言うとバカみたいだけど、あたしは本気だったわ。もちろん、ガウリイもね」

ゼロスはただリナの髪を梳きつづけた。
リナは寝返りをうち、うつぶせの状態で、言葉を続ける。

「……急ぎすぎたのかなって、思ったこともあったの。学科は違うけど、同じ講義を受けれるときもあるし、昼休みも、帰りも一緒にいられるわ。ガウリイは大学入ってすぐバイトを始めて、いつも忙しそうだったけど、あたしは、不満なんてなかった。ガウリイがああ見えてけっこうモテるのも知ってた。なんたって顔だけはいいんだもの。……同じ科の美人の先輩とか、後輩に告白されて、そのたびにフってるんだって、ゼルガディスから教えてもらったのも一度や二度じゃなかった。ガウリイは、自分からはそういうの言わないから……。あたしの前だと、いつもニコニコして、嬉しそうなの。『リナと一緒にいると疲れもふきとぶから』って言って、少ない休みの日にデートしたわ。あたし……ただ、幸せだった。幸せなだけの毎日が、ずっと続いたの」

ゼロスは相槌もうたなかったが、リナの言葉が、紛れもない本音なのだとは知っていた。

「でもね。ダメだった。ずっとどこかで気づいてたのかもしれないけど、あたしだって、意地をはってたわけじゃなくて、そんな簡単にガウリイを嫌いになれないから、嫌いになれる……わけがないから、その日までは、あたし、何の迷いも疑いもなくいられたの」

深夜にふさわしい静寂がしばらく流れてから、リナが再び口を開く。
思い出すように、ゆっくりと。

「その日は……授業が終わったあとで、あたしはガウリイを探していたの。待ち合わせ場所に来なかったから……。それで、校舎の裏で見つけたんだけど、ガウリイは、同じ大学の女性(ひと)から告白されてるとこだったのよ。しかもすごい美人でね、あたしと違って、出るとこはちゃんと出て、引っ込んでるとこはちゃんと引っ込んでる、モデルみたいな人だった。あたしはとっさに隠れて、二人のやり取りを聞いてたんだけど、その人何度もガウリイに告白してたらしくて、ガウリイはうんざりした感じで、断っていたの。そしたら、その人泣き出しちゃって、言ったのよ。『リナって子なんかの、どこがいいのよ』って。たしかにあたしは童顔だけど、一つか二つしか年違わない人にそんな言い方される覚えはないわ。そう思って、飛び出していきたいのを堪えてたら、ガウリイがこう言ったのよね。『リナは……俺がついていてやらなくても大丈夫だから。でも、だから、傍にいてやりたいんだ。リナが俺を必要としてくれなくても、俺は、あいつとずっと一緒にいたい』って。その女の人はポカーンとした顔しちゃってさ、『……バッカじゃないの!?』て捨て台詞吐いて、帰って行っちゃったのよ。あたしも同じ気持ちで、今こそ飛び出して行って、ガウリイの頭をスリッパで叩いてやりたかったのに……出来なかったのよ。あたしからはガウリイの背中しか見えなくて、その背中があたしがいる方向とは逆に歩き出して、あたしから遠のいていくのに、追いかけられなくて、あたし、そこに立ち尽くしてた」

長い独白は、思ったより軽い口調だった。
ゼロスは無言を貫いて、聞き役に徹していた。
再びの沈黙のあとに、リナは、悲しそうに言った。

「あたしが、ガウリイの人生を縛ってるんじゃないかって、気づいちゃったのよ。ガウリイがそのモデル女に言った台詞がね、嬉しくて、嬉しすぎて、だから気づいたの。あたしがガウリイを必要としてないわけがないじゃない。あたしは、ガウリイがいなくても大丈夫な、そんな強い女じゃないわ。自分で言うのもおかしいけど、そんな半端な気持ちで、婚約なんてしたりしない。ガウリイは……あたしに依存してるのよ。そして、あたしもね。……なんか急にね、客観的にそう考えたときに、『これじゃダメだ』って強く思ったの。ガウリイはあたしと一緒にいないほうがいいのよ。あたしに縛られて、あたしだけがガウリイの世界になってしまったら、ガウリイの可能性が潰れてしまうもの」

そう言い切ったリナに、ゼロスはそれまで通り反応を示さなかったが、不意に、フッと笑った。
口元だけだったのが押し堪えるような笑いになって、ついに声を出して笑い出した。
リナはそんなゼロスへ視線を向けて、少し睨んだが、やがて一緒に笑い出した。
『何がおかしいのか』という言葉がお互い様となってしまって、しばらく笑い合ってから、ゼロスのほうから笑うのをやめ、体を起こす。
まじまじとリナを見下ろして、言った。

「リナさんて頭が良いのに、バカですよね」

不意を突かれたのか、リナが目を丸くした。
次の瞬間、顔を赤く染めて、飛び起きる。

「なっ、あんたねぇ……っ!」

裸なせいなのか、あまり力の入ってないリナの拳が振り下ろされた。
ゼロスはそれをさらりと受け止める。

「そして、次は僕に依存するんですか?」

リナはピタリと動きをとめた。ゼロスは、静かな瞳でリナを見ている。
とっさに答えられず俯いたリナに、ゼロスは、リナの白い手にやわらかく唇を押し当てた。

「……リナさんはバカだけど、賢いですよね。僕がリナさんへ寄せていた気持ちをわかっていて、僕を利用したんでしょう。僕だってそれぐらいはわかりますし、知っていましたよ。リナさんが本当に好きな人は僕じゃないんだってことぐらいは、とっくにね。でも僕はリナさん以上に賢くて、リナさん以上に馬鹿ですから。リナさんの心が僕のものでなくても、僕はリナさんを抱けますよ。たとえリナさんに嫌われたってそうですし、今みたいに依存されて利用されても、僕はリナさんを愛せます。愛する女(ひと)に道具のように扱われるのも悪いものではないと、僕はリナさんのお陰で知ってしまいました。……たとえそれがリナさんの性欲の捌け口としてでも、ね」

リナはぎょっとしたように目を見開き、ゼロスを見つめる。
彼の柔らかな表情は、そんなリナを見て、微笑んだ。

「リナさんにだから教えますけど、僕はね、人を物のように扱うのが好きな人間なんですよ。それがお金のためであっても、他愛無い一時のための遊戯であっても、ちょっと憂さ晴らしにひどく女を抱きたいときであっても、僕はその対象となった人間に容赦なんてしないんです。だってどうでもいいですからね。その人間に憎まれても嫌われても、何も感じないというか、彼らの反応に面白味がないことがほとんどなんですね。僕はそういう意味で、まだこの通り見てくれは若いのに、正直、生きることに飽いていました。でも大学でリナさんに会って、僕は少しだけ変わったんだと思います。だから、リナさんも僕を利用することを躊躇わなかったんじゃないですか?僕がそういう人間だと見抜いていたのでしょう?」

なぜ彼はこんな内容を、こんなにも穏やかな瞳で言えるのだろうか。
リナは大きな瞳を幾度も瞬かせてから、乾いた喉で息を吸って、張り付いたようにでなかった声で、何か言おうとする。

「……あ、あたしは、その……」

だがそこで急に首を横に振り、深く息を吐き出した。

「……ううん。やっぱやめた。言い訳したって意味、ないものね。……ゼロスの言う通りよ。全部、今あんたが言った通りだわ。……きっと、あたしもそういう人間なのね。ゼロスを物のように利用してもなんとも思わない、ガウリイから離れたことと、今あたしがしていることで、ずたずたに乾いて冷えていくあたしの心を慰めてくれる都合のいい男を、あんたに求めていたんだわ。そしてあんたは、あたしが言わなくたってそれをわかってた。……あたしも、たぶん、知ってたの。知ってたから、もっと辛くて、でも、すごくね……あんたとこのマンションで過ごして、心地よかった。それだけは、本当だと思ったわ……」

裸の小柄な躰で、力無くリナはゼロスへと告げた。
普段の気丈な態度とはまるで違う雰囲気は、今にもこの場からリナが消え失せてしまいそうにも見えた。
ゼロスはそんな彼女に、先程とは違う、厳しい視線を送っていた。
俯いているリナはそれに気がつかない。

「……だからリナさんはバカだって言ってるんですよ」

「………え?」

苛立つようなゼロスの声に、リナは顔をあげる。

「ガウリイさんを裏切って僕に抱かれることに傷ついていながら、僕と過ごす時間を心地良いと思っていること自体を、そんな自分を心から責めているリナさんを、物凄く愚かだって言ってるんです。本当に、愚かすぎて、僕は……だから、リナさんを手放せない。三ヶ月前に僕のマンションの前で、『あたしの体を好きにしていいからここに住ませて』と貴女が言ってきたとき、僕がただ、棚からぼた餅以上のモノが降ってきたとしか思ってませんでした。貴女の思惑はともかく、体だけでも手に入ったら、それは対価なんて言葉じゃ足りないくらいに儲けものでしょう?でも……やはり僕もリナさんに対しては、クールに考えられないのでしょうね。まあ、ようやく愛する女性を見つけられたのですから、無理もないと思いますが」

冷静に自己を分析しつつ、リナへの想いを吐露する彼に、リナは唖然と彼の横顔を見つめる。
いつもの小憎らしいくらいの余裕がない、苛立ちを滲ませたその雰囲気が新鮮で、リナは思わず彼の頬にそっと手を伸ばす。

「……あんたって、そういう顔、できるのね。なんか、年相応に見えて面白いわよ……」

しげしげと言うリナに、ゼロスはなぜかこめかみに青筋を浮かべて、にっこりと笑った。

「それはどうも。ですが、僕がこんな風になってしまってるのはリナさんのせいだということ、忘れないでくださいよ。いくら僕が底無しにリナさんを好きでも、リナさんが僕にしていることは客観的に考えたら、けっこう酷いんですから」

「……そんなの、言われなくても知ってるわ」

「…………ですよね!」

精一杯に吐いてみせたゼロスの弱音は、そんなゼロスの様子を面白がるばかりのリナにあっさり肯定されてしまい、ゼロスはついに拗ねたように顔を背けた。

「……惚れた弱みってやつって、本当に厄介よね。あたしが言うのもなんだけど、少しゼロスに同情するわ。でも……あたしは、ガウリイが好きだから。……ごめん」

消えそうな声の最後の呟きに、ゼロスは敏感に反応した。
幾ばくか沈黙してから、手でリナの腕を掴んで、ぐいと引っ張る。

「きゃっ……っ」

驚くリナを胸に抱きこんで、寝台へと寝転がった。

「ちょ、今日はもうシないわよ……っ」

「わかってますよ」

焦るリナの背を軽く叩いて宥めて、ゼロスは遠くを見るように天井を見上げる。

大人しく腕の中でじっとしているリナの温もりを感じながらゼロスは、その肌の滑らかさと、汗と呼吸と、その奥の奥までをこのベッドでこの短期間に、何度味わっただろうかと考える。
回数にすれば決して少なくはないのに、まだ足りないと思うのは、それは――。

「……僕は、リナさんを手放したくないんです。リナさんがガウリイさんをどれだけ好きでもそれだけは変わらない。だからこそ僕はリナさんを赦せるし、僕は、本当は……」

その先を言おうとした途端、リナの手に口を塞がれた。

「……リナさん?」

手に押さえられたまま、ゼロスは彼女の名を呼ぶが、俯く彼女の表情は見えない。

「……お願いだから、それ以上言わないで、ゼロス。あたし……もうこれ以上は、あんたと一緒に居ちゃいけないって、本当はわかってるの。でも、それでもまだ、ここから出て行けない。だから……」

今日の昼間にゼロスの元婚約者セシルに強襲されたリナは、気丈にセシルを追い返し、
その後の会話でも、ここから出て行こうとする意思を示す様子はなく、「また元婚約者がここへ来たりするのか」と迷惑そうにゼロスへと聞いていた。
それなのに――。

ゼロスは内心で歯噛みしてから、それを表情に出さず、そっとリナの頭に手をのせる。
優しく撫でて、囁いた。

「……リナさんがどれだけ酷くても、僕はリナさんを見捨てませんよ。リナさんの為なら……僕がどれだけ非情になろうとも、僕は、貴女と一緒にいます」

リナの眉間がきつく寄せられてから、リナは小さく頷いた。

「………ありがとう、ゼロス……」





ベッドの上で身を寄せ合うように横になり、リナが穏やかな寝息を立て始めても、ゼロスは寝ることなく、部屋の暗がりの中でリナを眺めていた。

手に入りそうで手に入らない、自分にとって最も非情な少女を。
2014/10/21(04:53) | Comment:0 | TrackBack:0
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