「ゼロス……」
突如現れた青年の名を、ガウリイがつぶやいた。
ゼロスは一歩一歩リナに近づいて、目を見開いて固まる彼女の肩に優しく手を置いた。
「どうも皆さん、こんにちは。そんなにびっくりされると少しショックでもありますが、おかげでどんな話をしていたのかはよくわかりますよ」
ゼロスは肩をすくめて、おどけるように言い放った。
硬直しているのはリナだけではなくて、ゼルガディスもアメリアも、どう反応すべきか迷っているようだった。
いや、違う。警戒しているのだ。
リナは否定していたが、恐らく――いや、間違いなく、リナとガウリイの破局の原因となったであろう男を。

「ガウリイさんは、僕に話があるのではないのですか?そのことに関して、今日、リナさんたちとお話していたのでしょう?」
話題を切り出したのはゼロスのほうからだった。
ゼルガディスもアメリアもとっさに、ガウリイへ目をやる。
ゼロスが現れてから、明らかにガウリイの気配がいつもと違う。
ゼルガディスはガウリイの腕をつかんだ。
振り払われはしないが、ガウリイの緊張も変わらない。
アメリアはどう動いたらいいか迷っていた。
リナに近づこうにも、リナの傍にはゼロスが居る。
リナの明確な意思がわからないまま、勝手には動けない。
「……ああ、そうだ」
ようやく声を絞り出したガウリイに、ゼロスは澄ました顔で言葉をつづける。
「僕がリナさんと付き合ってるのかってことですよね?リナさんはいつもそれに『NO』と答えてしまうのですが、僕としては、はっきりと『YES』と答えさせて頂きます。もう、隠す必要もないでしょうし」
「……ゼロス、貴様は…っ!」
叫んだのはゼルガディスだった。
ゼルガディスとゼロスは以前から仲が悪い。馬が合わないのだろうと周りには言われていたが、彼らは同じ高校出身だった。何か過去があるのかもしれない。
だが、そんなゼルガディスを制したのはガウリイだった。
「……いいんだ、ゼル。離してくれ」
「ガウリイ……」
ゼルガディスはガウリイの腕を離す。
ガウリイはゼロスへ歩みを進めて、あと二歩の所で止まった。
「……お前が、リナを幸せにするのか?オレの代わりに?」
唐突な問いかけに、ゼロスはいつもと同じ微笑でガウリイを見返した。
「ガウリイさんはロマンチックな方ですよね。正直、僕とは大違いです」
ガウリイは眉をひそめる。
ゼロスの言い方はふざけているとしか言いようがないが、その瞳は、修羅場の渦中の男とは思えないほどに穏やかだった。
「僕は、リナさんが好きです。リナさんが僕をどう思っているのかは、リナさんのプライベートなので伏せさせて頂きますが、貴方との婚約破棄がひとつの意思表示なのだと思います」
ガウリイ達に背を向ける形で、ゼロスの腕に肩を抱かれているリナの体が、わずかに震えた。
ガウリイは拳を握りしめるが、それ以上は動かない。
「そして、僕は、リナさんと結婚したいと思っています」
「……ゼロスっ!」
ゼロスの穏やかな宣言に、ずっと硬直していたリナが弾かれたように顔をあげた。
「ちょっと待ってよっ!あたし、そんな話は聞いてな――」
叫ぶリナの声が、遮られる。
ゼロスの唇によって。

たった数秒のそれが、長い長い時に感じられた。
ゆっくりと離されたあと、指で、唇をなぞられる。
「リナさんの罪を一緒に背負うことの、代償ですよ。代金、とも言えますね。これでリナさんは、僕のものとなりました。ようやくです。ようやくこれで、貴女は僕の婚約者となった」
ゼロスの瞳の真剣さが、リナに二の句を告がせなかった。
「…………ゼロス……」
体から力が抜けていくリナを抱きとめたゼロスは、振り返った。
こちらを注視したまま動けない三人へと。
「そういうわけですので、僕たちはこれで失礼させて頂きますよ。ガウリイさん、ゼルガディスさん、アメリアさん」
ゼルガディスとアメリアにも丁寧に頭を下げたゼロスは、ガウリイ達へ背を向けた。
そのままリナの肩を抱いて去っていこうとした彼を、呼び止めたのは、リナの元婚約者の男だった。
「待てよ、ゼロス」
ゼロスの足が止まる。
「リナと話をさせてくれないか?」
短い沈黙のあと、ゼロスは、ガウリイへ振り返る。
「……だそうですよ、リナさん。」
ゼロスはリナから手を離し、彼女の背をそっと押した。
ガウリイへ向けて。

深く俯いているリナに、ガウリイは近づこうとせずに、言葉をかける。
「……なんとなく分かったのは、リナがオレを嫌いになったわけじゃないってことと、ゼロスがリナに惚れているのは本気だってことだ。……違うか?」
リナは肩を震わせるが、首を横に振ることも、頷くこともしなかった。
返事がないままに、ガウリイはつづける。
「オレは自惚れてるつもりはないが、オレがリナを幸せにするんだと、そう思っていた。ずっと、そう思って、リナの傍にいたし、ずっとお前の傍にいたかった。……でも、もう、無理なんだな。オレたちは……」
この状況下でここまでの冷静さを保ち、リナとの関係に、最後の終止符を自ら打とうとしているガウリイの姿は、痛々しいほどだった。
ゼロスは後方でそんな二人を見守り、リナとガウリイの関係をよく知るゼルガディスとアメリアもまた、耐え難いように、彼らを見守っていた。
「…………あたしは……」
不意に、小さな声がもれた。
ずっと俯いていたリナの右拳は血がにじむほど固く握られて、震えている。
「あたしは……たぶん、後悔してるんだと、思う。ゼロスを選んだことよりも、ゼロスを利用したことよりも……ガウリイを裏切ったことを、後悔してる。でも、それは、あたしが決めたことだから……だから、ガウリイはあたしに怒っていい。嫌いになっていい。なじっていいの。……お前は最低だって、言って欲しかったのにっ……ガウリイは、なんでそんなに、優しいのよ……っっ!!」
聞き取れるかどうかぎりぎりなくらいに小さかった声が、最後に、叫びへ変わった。
ぱたぱたと、地面にリナが流した涙が落ちる。
「……リナ………」
「…だからっ、もう、あたしは……っっ!」
言葉にならない言葉を言おうとするリナに、とっさにガウリイが傍へ寄ろうとする前に、ゼロスが二人の間へ割って入った。
「もうこのへんでいいでしょう。リナさん、行きましょう」
ゼロスはリナの手を引いた。
リナはゼロスに引っ張られるままに、歩きだす。
そうして去って行った二人を、ガウリイ達は追うことなく、その姿が見えなくなるまで立ち尽くしていた。












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2014/05/27(21:53) | Comment:0 | TrackBack:0
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