微妙な関係のゼロリナ。現代パロディ
ガウリイ、ゼルガディスが関係。オリキャラ登場します
「ねぇ、私がどんな気持ちだったか、あんたわかるの?」
突き刺さるように女の声が響く。
顔面蒼白のリナは、足元から冷えていく体を、立たせているだけで精一杯のようだった。
「あんたみたいの、どろぼう猫って言うのよ。知ってる?人の男を奪ったんだから。私の男を、ゼロスを、あんたは私から掠め取って、我が物にしようとしたのよ。そういうのは良くないことだって、教わらなかったの?学校から、親から、社会から、教わって来なかったの?」
女は凍てつく瞳でリナを見据えて、容赦ない言葉を浴びせ続けた。
リナは顔を背けて、耐え切れないように俯いていた。
昼の日差しが差し込む、ごく普通のマンションの一室だった。
部屋にいるのは、女とリナと、二人だけ。
「とにかく、ここから出て行きなさい。今すぐよ。これ以上ゼロスに、薄汚い雌犬を近づけたくないの。わかるわよね?」
室内には簡素な家具が並び、テーブルには食べ終わったらしい昼食の皿が一人分あった。
床には女物の服と、ポーチも散らばっている。
「ほら、早く。」
女は、リナの持ち物とおぼしきものを拾い上げ、黒いキャミソールワンピースだけ着ているリナへと押し付けた。
だがリナは、それらを乱暴に払いのけた。
女は怪訝そうにリナを見る。
「……出て行くのは、あんたのほうよ。あたしの物に勝手に触らないで。それから、薄汚い雌犬はどっちなのか、その足りない頭でよく考えてから喋ってくれる?あたし、そんなに我慢強いほうじゃないの。特に、あんたみたいなヒステリックな女は大嫌いだから。」
それまで一言も発しなかったリナの抵抗に、女は目を見開き、わなわなと唇を震わせる。
青ざめた顔で、叫ぶように言った。
「ちょっとあんたっ、私の話聞いてたの!?大体、ゼロスからも聞いてるんでしょ?婚約者がいるってことは!!それが私よ!」
「知ってるわ」
さらりと答えたリナに、女はますます信じられないように顔をゆがめる。
「だったら、なんで私に歯向かうのよ!!あんたは私のゼロスと不倫してたってこと、わかってんの!?」
そこで、リナは笑った。
可愛らしい顔で、妖しく微笑む。
「あたしとゼロスは不倫じゃないわ。そもそもあんただってまだゼロスと籍入れてないじゃない。あたしはゼロスと付き合ってない。彼女でもないし愛人でもない。恋人じゃないの。わかった?」
「はぁ!!?」
女は納得行かないように声を荒げる。
「あんた、頭おかしいの?私は、探偵に調べさせたのよ。この部屋に、ここ数ヶ月ずっとあんたが入り浸っていたことを!」
女は肩に下げていたバッグに手を突っ込んで、取り出した紙片をその場にぶちまけた。
床にばら撒かれたそれらは、いかにも隠し撮りされたような何枚もの写真。
写っているのはゼロスとリナ。アパートへ入ろうとするリナ。アパートから出てくるゼロス。
ついでに、街でウィンドウショッピングする二人の写真もあった。

リナは表情も揺らがせずに、それらを見下ろす。
「だから?これが何なの?ただ買い物していただけが、デートしたことになるの?あたしがこの部屋に出入りしてることが、あたしがゼロスの恋人である証拠なの?仮にもしそうだったとしても、ゼロスから捨てられるのはどっちなのか分からないくらいに、あんたは馬鹿なの?」
早口で言い捨てられて、リナから冷えきった視線を送られて、とっさに女はその場に硬直する。
が、次の瞬間に、何を言われたかわかってしまったのか、頭に血が上ったままに右手を高く振りあげた。
それがリナの頬へ振り下ろされる前に、玄関の扉が開く。

「――ただいまー、リナさん…?」
聞こえてきた声と近づいてくる足音に、女は固まった。
リビングのドアが開き、若い男が姿を現した。
「……あれ?」
男は驚いたように、リナと女とを交互に見て、間の抜けた声をあげる。
床に散らばってる写真たちも見て、黙って、それを一枚拾い上げる。
「……あっ、あのね、ゼロス。これは、その――」
彼の周りの空気が冷えていくのを感じ取ったのか、女は慌てて何か言いつくろうとするが、ゼロスはそれを手から捨ててから、振り向いた。
にっこりと笑った顔に、背中にリナをかばう形で。
「お久しぶりですねぇ、セシルさん。お父様はお元気にしていらっしゃいますか?」
セシルと呼ばれた女は顔を引きつらせてから、かろうじて笑みを浮かべた。
「え、ええ。本当に久しぶりね、ゼロス。父は元気にしてるわ。また貴方に会いたがっていたけど」
「そうですか。今の僕は、ビジネスから手を引いてますので、何かあれば僕の父に直接お願いします。悪いようにはならない筈です。……それから、貴女との婚約の件ですが、今日をもって解消しましたのでご安心下さい。これで、貴女も自由の身ですから、僕とは無関係の人間です。よかったですね」
何が良くて何が悪いのか。
毒にも薬にもならないゼロスの笑顔は、有無を言わさずに女に止めを刺した。
女は喉の奥から悲鳴のような声をあげる。
口をぱくぱくと金魚のように開けてから、震える腕で、リナを指差した。
「ちょっとっ待ってよ、ゼロス…っ!そ、その女は恋人じゃないって、その女が言ってたわっ!私が、貴女と婚約解消する理由は無いじゃないっ!!ねぇ!!?」
窮地に追いつめられた者が、藁にも縋るように女は言った。
ゼロスは少しだけ困った顔でリナを振り返ったが、リナはそっぽを向いていて、口をきこうとすらしない。
「はぁ、そうですね。まあ、本人から恋人じゃないって言われちゃったら、そうかもしれませんねぇ……」
意外に気弱な様子に、女は、必死にゼロスへ詰め寄る。
「だったら問題ないわっ!この女のことは、火遊びってことで許してあげるから、だからっ――」
そこで、ゼロスの顔から笑みが消えた。
女は思わず口ごもり、一歩下がる。
「……許す?貴女が、僕をですか?」
「いや、だから、そのっ……」
「何を勘違いなさっているのかは知りませんが、貴女との婚約は、僕の父と貴女の御父上との間で勝手に決められたこと。僕の意に沿ったものではありませんし、貴女もそうだった筈ですが?」
女は痛い所を突かれたように、唇を歪ませる。
「最後に会ったのは二年前。その間、あなたも派手に遊んでいたらしいじゃないですか。金で調べさせるのが簡単なのはよくご存知でしょう」
とっさに顔をそらした女に、ゼロスは畳み掛ける。
無機質に整った瞳と顔で。
「婚約破棄の理由はあげればきりが無いほどですが、あなたの御父上の会社が、うちの重要なビジネスパートナーの一つなのも事実ですし、その逆も然りです。いろいろ明るみに出たら不利なのはそちらですよ。今日のことと合わせて、婚約破棄だけで済めば安いものだとは思いませんか、セシルさん?」

ぐうの音もでなくなった女は、苦しげに視線を彷徨わせた。
ゼロスの背に隠れて、リナというどろぼう猫の顔はうかがえない。
白く細い足だけが、見えた。
みずみずしい若さとその折れそうな細さに、どうしようもなく憎しみがわいたが、今この場において、自分に有利な点は一つも残されていなかった。
「……ふっざけてんじゃないわよぉっ!!」
怒りまかせに叫び、バッグを振り回す。
テーブルにあたり、コップがひとつ落ちて割れたが、ゼロスもリナも動かない。
ただ冷めた目で、肩で息をして立ち尽くすセシルを見ていた。
やがてぽつりと、つぶやいた。
「……もう、いいわ。どうせ貴方が言った通り、政略結婚だったんだもの。私は……父の道具だものね。結婚相手なんて選べやしない。選ぶ権利が無いのよ。でもゼロスの会社は大きいわ。うちよりずっと大きい。金も名誉も権力も手に入る。あなたの奥さんになれば。そう思ったわ。あなたが会社から離れたと聞いたのはつい最近のことよ。そんなんじゃ困ると思って、調べさせたら、ついでに出てきたのがそこにいるリナって女のことよ。……でも、もういい。疲れた。……帰るわ」
別人のように肩を落として、乱れた髪や化粧のまま、女はふらふらと部屋を出て行った。







しーん、と耳に痛いくらい静かになった部屋で、リナは溜め息を吐いてから、ベッドへ腰をおろした。
ゼロスは床に落ちていた写真を一枚ずつ拾い、ダイニングキッチンの洗い場へ行き、ライターを取り出す。
めらめらと燃えて行く写真たちを、リナはぼんやりと眺めて、言った。
「……あんなヒステリックな婚約者がいたなんて、あたし、聞いてないんだけど?ゼロス?」
ゼロスは答えない。
燃えつきるまで確認してから、今度は割れたコップを片付ける。
リナは頬をふくらませて、足をぷらぷらと揺らし、淡々と作業するゼロスを目で追った。

しばらくして、カチャリと目の前に紅茶が置かれて、リナは睨むようにゼロスを見上げる。
リナのささやかな抵抗に苦笑したゼロスは、紅茶へ角砂糖を入れてかき混ぜた。
「先ほども言ったとおり、形だけのものです。父は僕に紐をつけておきたいのでしょう。セシルさんの前にも何人かいましたが勝手に解消されてましたし。それに……リナさんだって婚約者がいるでしょう?」
リナはぴくりと眉を寄せる。
不快そうな顔をしてから、ゼロスを睨みつけた。
「おや、僕は何か間違ったことを言いましたか?」
リナの怒りに、ゼロスはおどけて言った。
「……べつに、間違っちゃいないわ。事実よ。……でもあんたに言われると、なんかムカツくのよ

目をそらしたリナは、根負けしたように小さく呟く。

ゼロスは目を細めて、今二人の間に流れている微妙な空気と、リナが無防備に晒している素肌の白さを味わいながら、紅茶を口に含む。
三ヶ月以上も一緒に暮らしたのに、リナのこの態度だけは、ひとつも変わらなかったと思いながら。
「でも、ガウリイさんとは結婚しないんでしょう?」
ゼロスはついにその言葉を口にした。
リナは黙って紅茶を飲み、白いカップの縁を指でなぞる。
沈黙するリナにそれ以上ゼロスも訊こうとはしなかった。
昼下がりの太陽は夕暮れに変わろうとしている。
学校帰りの子供だろうか。きゃっきゃとはしゃぐ声が、2階のこの部屋によく聞こえた。
「……明日は、学校に行くわ。もう単位もやばいし。……あんたは?」
「僕は行きません。仕事がありますので。」
「……あっそ」
昼ご飯を食べ終わったリナを突然強襲したセシルとかいう名前の元婚約者に言ってた言葉と違うんじゃないかと思いながら、リナはゼロスにツッコこもうとしなかった。
学生でありながら、何らかのビジネスに手を染めているゼロスは、その詳細をリナにも言おうとしない。彼の父が大きな大きな会社の会長なのは有名な話だが、ゼロスの動きは不鮮明だった。それはビジネスに限ったことではない。

「……セシルの次にも、また勝手に婚約者ができるわけ?あんたのお父さんの命令で?」
ゼロスは目を見開く。
呟くように聞いたリナは、膝を抱えて丸くなっている。
「もしかして、気にしてくれるんですか?リナさんが、僕のことを?」
なんだか嬉しそうなゼロスに、リナは内心で舌打ちをする。
「あたしが迷惑だから聞いてんのよ。また今日みたいに突然来られて、変な言いがかりつけられるのイヤだもの。」
ゼロスは紅茶のカップをテーブルへ置く。しばし黙ってから、言った。
「……言いがかり、ですか。言いがかり、ねぇ……」
含みがあるように言葉を繰り返す彼をリナは無視した。
が、後ろから背中をなでられ、うなじに息をふきかけられて、反射的に声をあげる。
「ちょっ、ゼロス…っ!」
「リナさんて、ほーんと素直じゃないですよねぇ。そういうところ好きですけど、僕だって一応、オトコノコなんですよ?知ってます?」
後ろから抱きしめられて、耳に熱い息をかけられて、リナは身をよじらせるが、ゼロスは離そうとしない。
リナの服の下から手が潜り込む。
激しくもなければ乱暴でもない。
優しいだけの手つきに、リナは抵抗することをやめた。
「そういえば、時間指定ってしてなかったものね……」
「何を今さら。」
即答したゼロスは、リナに顔を近づけた。
唇が重なって、何度も触れ合うキスが繰り返される。
リナの体の力が抜けきったのを確認してから、ゼロスはリナを抱きあげた。
ベッドへ下ろされて、リナはぽつりと言った。
「ねぇ、ゼロス……あたし、間違ってるのよね?」
服を脱ぎながら、ゼロスはリナの足を開かせる。
「僕は、リナさんが間違ってるかどうかに興味がありませんよ。でも、リナさんだって、自覚しているならこんなことしないでしょう?」
リナはちょっと笑った。
飾らない言葉は、不思議と胸にしみこんでいく。
汚れきった気持ちも、これ以上は綺麗になれない心も、『恋人じゃない』と言い切った男と体を重ねる矛盾も、今日も変わらない快楽の波に、リナは目を閉じて、全身を委ねる。
自らへの嫌悪感が増していくだけなのだと、痛いほどに知りながらも――。








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コメントお待ちしてます(´∀`*)
2014/05/25(03:40) | Comment:0 | TrackBack:0
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